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頭巾付きの旅衣を着た若い男が立っていた。白い肌、亜麻色の髪、青味がかった灰色の瞳。年齢は見分けにくいが、シオンと同じくらいのようにも見える。背丈はシオンよりも低く、ユズナより高い。
「話があります。どうか中に入れてください」
男は言った。
「早く」
その強い語気に押されるようにして、ユズナは男を中に入れた。
扉が閉じると、男は頭巾を降ろした。ロウソクの火で、亜麻色の髪が明るくなった。
「私の名は、オビト」
「オビトだかコビトだか知らないが、こんな夜更けに何の用だい?」
後ろから、おかみさんがぶっきらぼうに言った。
「すみません。ご迷惑をおかけしますが、こちらのお二人に話があるのです」
「お嬢ちゃん達に迷惑かけようってことなら、帰ってもらいたいね」
「おかみさん」
男を追い返そうとするおかみさんを、ユズナは押しとどめた。
「大丈夫です……ありがとう」
「いいのかい?」
ユズナは、追いつめられた男の様子が気になっていた。
「ええ、話だけでもお聞きしましょう。オビトさん」
男は、安堵のため息をついた。
「ありがとう、このとおり、感謝します」
クナの礼法で、男はぎこちなく頭を下げた。
「食堂を使うかい?」
「折角ですが……三人だけにしていただきたいのですが……」
男がそう言うと、おかみさんは「好きにすれば良い」と言う風に肩をすくめた。
ユズナとシオンは、オビトを二階の部屋に連れて行った。
部屋に戻ってもシオンは刀を離さず、茶卓の上のロウソクの明かりが届くぎりぎりのところに立った。ユズナは名を名乗ってから、オビトに椅子を勧め、自分も腰を降ろした。
オビトは小声で話し始めた。
「私は、ある目的を果たすために、この港にやって来ました……お二人に、それを手伝って欲しいのです。」
「待って、あなたにはクナ人とテパンギ人の区別はつかないかも知れないけど……私達は今日この港に着いたばかりで、大陸のことは何も知らないのよ。とてもあなたのお役に立てるとは思えないわ」
ユズナがそう言うと、オビトは少し語気を強めた。
「私にはまず、強い仲間が必要なのです」
ロウソクの灯がその息でわずかに揺れる。
「クナ人である必要はありません」
オビトの言葉を聞いて、ユズナはシオンの方を見た。表情は見えないが、小さく肯いたのが分かった。二人の腕前を知っているということは、昼間の騒動を見ていたに違いない。
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