2人が本棚に入れています
本棚に追加
/177ページ
番兵達は鉤から伸びている綱を、船を留めるための杭に巻こうとする。ウミワラジは石畳に爪を立ててそれに抗った。石板を引っ掻く音が鳴り響く。やがて鉤のかかった殻が少しずつめくれ上がる。それを見たユズナは落ちている銛を手に取った。
「やあ!」
跳躍すると、彼女はウミワラジの殻の隙間に銛を打ち込んだ。
銛は狙いどおりに突き刺さったが、ウミワラジの暴れる勢いは衰えない。ユズナは銛ごと振り回され、宙に放り出された。
シオンは剣を投げ捨て、ユズナを両手で受け止める。
瞬間、彼の瞳が鋭く光った。これ以上、ユズナを危険にさらすことは出来ない、という想いが彼の全身を巡る。シオンは懐から細長い筒を取り出した。掌からわずかにはみ出るほどの長さの筒だ。
「これで終わりだ」
ユズナはその筒の正体を知っていた。爆雷だ。
「駄目よ、シオン。ここでは駄目」
ユズナはシオンの手を掴んだ。爆雷を使って蟲を倒せば、周りにいる人々まで傷つけてしまう。だが、シオンはユズナの手を力ずくで振りほどいた。ユズナ以外の人間がどうなろうと、彼にはどうでも良いことであった。
その時、地面に影が落ちた。
ウミワラジを中心に、影はみるみる大きくなり、やがて蟲をすっぽりと包み込んだ。
空から、巨大な何かが蟲の上に落ちてきた。
地面が震える。
ウミワラジの体躯が小枝のように二つに折れ曲がった。
見開いたユズナの目に、ゆっくりと揺れる竜の首が映った。
〈キシャァァ〉
鋭く尖った牙が、顎に並んでいる。
生き物の一部というよりは、凶暴な目的のためにつくられた武器のように見える。
ユズナとシオンは反射的に身構えた。
しかし、竜は二人には目もくれず、踏みつけたウミワラジに噛みついた。
ガリッ ゴリッ
竜は蟲を好んで食べる。ウミワラジの固い殻をまるで、煎り豆か何かのように噛み砕く。
ウミワラジは身悶えたが、もはや誰の目にもそれは無駄なことに見えた。
竜の背には、人の姿があった。
ユズナは見上げたが、人影の向こうから陽の光が射してきて、はっきりと顔を確かめることは出来なかった。
(竜の背に乗っている……竜騎兵……)
一刻ほど前に船から見えた、あの竜騎兵だろうか。
蟲をむさぼり続ける竜の背から、前肢を踏み台にして、騎兵は石畳の上に降り立った。
眼帯の一種だろうか、竜騎兵は卵が二つ並んだような不思議なもので両目を覆っていた。
最初のコメントを投稿しよう!