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頭にもまた蟲の殻のような形をした兜を被っている。目の下には布を巻いているため、表情は分からない。
竜騎兵はユズナとシオンの側へと歩み寄ると、両目の覆いを外し、顔に巻いた布を顎の下にずらした。
異様な装いに比べて、その素顔は柔らかな印象を与えた。年の頃は三十ほどに見える。
彼は二人の前で、クナの作法で手を組み合わせると礼をした。
「勇敢な異邦人よ、我が名はギバ。願わくば名を教えていただきたい」
ユズナもまた、クナの作法でギバの礼に応じる。
「ユズナ、と申します」
ギバはユズナを見て微笑みを浮かべた。
「健やかに澄んだ、美しい眼をしていますね」
ギバは続けてシオンの方を見た。彼は投げ捨てた剣を拾って、鞘に収めたところだった。
シオンはまだ気が高ぶっていた。「シオン」とぶっきらぼうに名だけを告げると、礼に応じることなく、油断の無い視線をギバに注いでいた。
「そなたはまるで、狼のような眼をしているな……」
そう言う竜騎兵はシオンとは正反対に、山奥の僧院で修業を積んだ僧にふさわしい、穏やかな光を瞳に宿していた。
「今は、先を急ぐ身ゆえ、このまま失礼させていただきましょう。お二人に出会えて幸いでした。縁があれば、また巡り会えましょう」
竜はもう既に、ウミワラジを食べ尽くしていた。
ギバは竜に騎乗する前に、番兵達にも声をかけた。
「ウミワラジのように臆病な蟲が、陽の高いうちに、海から上がって人を襲うのは奇妙なことだ。くれぐれも、見張りを怠ってはならぬ」
ギバを乗せた竜は、ゆっくりと翼を広げる。
風を巻いて、竜は空へと駆け上がった。
後には蟲の骸だけが残された。殻や足の残骸だ。
興奮が冷めると共に人の輪が崩れて、いつもの港の風景へと移っていく。
番兵隊の長はユズナとシオンに、兵舎で休むように勧めたが、ユズナは首を横に振った。
「折角ですが、私達はまだ港に着いたばかりで、宿も取っておりませんので……」
「そうですか。兵舎でよければお泊めしたいところですが、女人にはお勧め出来ませんな……」
兵長は残念そうに眉を寄せた。
「お姉ちゃん」
ユズナが振り向くと、先程の姉弟が寄り添って並んでいた。
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