第1章

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 頭にもまた蟲の殻のような形をした兜を被っている。目の下には布を巻いているため、表情は分からない。  竜騎兵はユズナとシオンの側へと歩み寄ると、両目の覆いを外し、顔に巻いた布を顎の下にずらした。  異様な装いに比べて、その素顔は柔らかな印象を与えた。年の頃は三十ほどに見える。  彼は二人の前で、クナの作法で手を組み合わせると礼をした。 「勇敢な異邦人よ、我が名はギバ。願わくば名を教えていただきたい」  ユズナもまた、クナの作法でギバの礼に応じる。 「ユズナ、と申します」  ギバはユズナを見て微笑みを浮かべた。 「健やかに澄んだ、美しい眼をしていますね」  ギバは続けてシオンの方を見た。彼は投げ捨てた剣を拾って、鞘に収めたところだった。  シオンはまだ気が高ぶっていた。「シオン」とぶっきらぼうに名だけを告げると、礼に応じることなく、油断の無い視線をギバに注いでいた。 「そなたはまるで、狼のような眼をしているな……」 そう言う竜騎兵はシオンとは正反対に、山奥の僧院で修業を積んだ僧にふさわしい、穏やかな光を瞳に宿していた。 「今は、先を急ぐ身ゆえ、このまま失礼させていただきましょう。お二人に出会えて幸いでした。縁があれば、また巡り会えましょう」  竜はもう既に、ウミワラジを食べ尽くしていた。  ギバは竜に騎乗する前に、番兵達にも声をかけた。 「ウミワラジのように臆病な蟲が、陽の高いうちに、海から上がって人を襲うのは奇妙なことだ。くれぐれも、見張りを怠ってはならぬ」  ギバを乗せた竜は、ゆっくりと翼を広げる。  風を巻いて、竜は空へと駆け上がった。  後には蟲の骸だけが残された。殻や足の残骸だ。  興奮が冷めると共に人の輪が崩れて、いつもの港の風景へと移っていく。  番兵隊の長はユズナとシオンに、兵舎で休むように勧めたが、ユズナは首を横に振った。 「折角ですが、私達はまだ港に着いたばかりで、宿も取っておりませんので……」 「そうですか。兵舎でよければお泊めしたいところですが、女人にはお勧め出来ませんな……」  兵長は残念そうに眉を寄せた。 「お姉ちゃん」  ユズナが振り向くと、先程の姉弟が寄り添って並んでいた。
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