第1章

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「うん、今日着いたばかりで、宿を探しているんだって」 「そう、それじゃあ、なんとしてもうちに泊まっていってもらわないとねえ。狭いところで申し訳ないけど、掃除だけは行き届いているからね。船でおいでなさったのかい?それなら少しくらい寝台が堅くても、慣れていなさるね。お二人、同じ部屋でもいいのかね?」  母親は、すぐさま世話好きの宿屋のおかみさんとなって、矢継ぎ早に言葉を繰り出した。 「ええ、構いません。従兄妹同士ですので」 「そうかい、従兄妹なのかい。まだ若くて、夫婦って感じにも見えないしね。もっとも、あたしが嫁いだのは、お嬢さんくらいの年だったけどねえ……」  おかみさんは喋りながら、ユズナ達を二階へと案内した。  部屋は確かに、狭いけれど手入れが行き届いていた。  小さな寝台が左右の壁際に置かれていて、部屋の真ん中には小さな茶卓が一つ、椅子が二つ置いてある。  今日は他に客はいないそうだった。  通りに面した窓の向こうには、海が見える。 「ユズナお姉ちゃん、ご飯の前に湯浴みする?」 「お湯もらえるの?嬉しい」 「すぐ沸かしてくるね」  ヨナは下へ降りていった。 「本当に久しぶりだわ、湯浴みなんて……どうしたの、シオン?」  シオンは、窓際の壁に背を預けて、狭い角度から窓の外を覗いていた。  何かに心を囚われている様子で、顎から首筋にかけてわずかに緊張が漂っている。 「後を、つけられていた」 「本当?……テパンギからの追っ手かしら」 「分からない。気が付いたのは、この宿へ向かう途中のことだ」 「追っ手だとしたら、私が生きているのが、知れてしまったということかしら」 「……同じ船に乗っていたのでなければ、こんなに早く追いつくはずがない。もし乗っていたのだとすれば、上陸する前に仕掛けるか、先程の騒動を利用するはず」  シオンは、故国からの追っ手だとは考えていないようだった。ユズナ自身も、大陸にまで追っ手がかかるとは考えたくなかった。しかし、シオンが言うのだから、つけられていたことは間違いないだろう。 「この家の人達に、迷惑がかからないかしら」 「さあ……目的が分からない以上、我々が去っても安全では無いかも知れない」 「そう……」  シオンは窓から離れた。 「ひとまず消えたようだ……日没を待っているのかも知れない」  今のうちに休んでおこう、そう言うと、シオンは寝台へ腰を落ち着かせた。
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