第1章

2/15
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「夏と言えば~?」 「海」 「ぶっぶ~。夏と言えば?」 「ビキニ」 「すけべ」  夏と言えばバーベーキューでしょう!とはしゃぎながら言うキリコの押しで山に来ることに。  ゴウショウと噂の小さい女の子も一緒。 「あの、あの、ユウコです。ユッコと呼んでくだしゃい!」  最初の挨拶が思いきり噛みながらも元気いっぱいだったので、僕もキリコもすぐに気に入った。恥ずかしそうにしながらも目がキラキラしてる。キリコとは見た目は違うけど元気さは似ているかもしれない。 「ゴウショウいつのまに」囁くように言う。 「あ、いや、まだ何も」大きい体を小さくする。 「いつかお前の物語も聞かせてくれよ」 「たい」ゴウショウは力強く頷く。  山と言っても近所の山だ。そう高いわけでもなく、山を登ると言うより森に入っていく感じだ。砂利で道になっているところを歩いていく。夏の照りつける太陽を天然の傘たる青く茂る木々が優しく遮る。木漏れ日となり心地よい。時おり吹く風が爽やかに僕たちを撫でていく。  おかーをこーえーいこうよー。くちーぶえーふきつーつー。  キリコが唄い出すとみんなつられて合唱になる。こういう時間ってかけがえがない。青春だな。  ユッコは何気に歌が上手い。小さいのに声が伸びやかで声量がある。キリコとはまた違ったタイプだが負けず劣らずだ。それに気付いたキリコは嬉しそうだ。人によっては嫉妬だったりライバル心だったりになるかもしれない。でもキリコは嬉しいのだ。自分に刺激を与えてくれる人がいることが。歌が上手い人でも足が速い人でも。自分より上ならそこに向かっていく。そのわかりやすい負けず嫌いさ。卑屈さはない。それがすがすがしい。お互いを高め合える存在で世の中溢れたらきっと醜い争いはなくなるのだろうか。  15分ほど軽く登って下ってと歩くと、木々が途切れて空間が広がる。眼前に清流が現れる。緑の木。青い空。深い青の川。自然とはかくも美しい。そしてかくも心地よい。それを忘れてしまう日常の喧噪とはなんて不毛なのだろう。時に立ち止まって自然を吸い込めば心が穏やかになる。  
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!