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カーテンがそよそよと揺れる。
「……危ないよ、加瀬」
彼は何も言わない。
「落ちるよ」
グラウンドから、目を離さない。
空高く響く部活の声。
朝の数時間だけゆるされた、優しい光の教室。
別世界みたいで、いつも授業を受けている場所とは思えない。
そう、これは脆くて儚い、泡沫の時間。
すると、彼がポツリと呟いた。
「……大会、明日だっけ」
ようやく彼がわたしを見た。
光に包まれて、表情は掴めない。
その手がわたしに伸びる。
「西宮。それ、見せて」
わたしは手に持っていた紙を、遠慮がちに彼に差し出した。
教室にカバンを置いたら顧問の先生に渡しに行くつもりだった紙。
退部届。
「マネージャーにまでいなくなられたら、アイツら困るだろ」
そう言って、彼は窓に腰掛けたまま、器用に退部届を折っていく。
わたしは言い返すことも止めることも出来ずに、黙ってそれを見つめていた。
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