14人が本棚に入れています
本棚に追加
「わたしには、あの場所で笑う価値なんてないよ……」
こんなことになるんだったら。
あの日、加瀬をサッカーの試合観戦に誘わなければ良かった。
信号の点滅中に横断しなければ良かった。
あの車が急いでいなければ良かった。
庇ってもらわなければ良かった。
そしたら、加瀬は今も───。
「価値なんて、西宮が決めることじゃねえだろ」
周りが決めんだよ、と乱暴な口振りで加瀬が言う。
「俺は西宮がいてくれて良かった。アイツらもそう言ってる」
「………」
「早く飛ばした紙取りに行って、今日まで部活休んだことくらい謝って来い」
加瀬が再びグラウンドを見下ろす。
───やっぱり、加瀬は。
泣きたくなるくらい優しいね。
今なら言えるのかもしれない。
今日まで伝えられなかったこと。
今なら、きっと。
最初のコメントを投稿しよう!