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ねえ加瀬、わたしは。
加瀬のことが。
「……好きだよ、加瀬」
ずっと、ずっと前から。
好きだった。
カッターシャツの袖を捲ると、筋肉質な腕が覗くところも。
わたしと話すときだけの猫背も。
片頬だけの笑窪も。
全部。
加瀬はサッカーが何より大好きで。
それを生き甲斐にする人だった。
テスト期間中は部活がないから、机に突っ伏して落ち込んで。
けれど、誰もいないグラウンドで毎日ボールを蹴って練習していた。
あるときは、赤点続きの加瀬のために勉強会を開いて。
あるときは、大会で初優勝して一緒に涙した。
合宿の夜に、加瀬に呼ばれて二人で抜け出して。
そこで、夢はサッカー選手、って言葉を聞いた。
すべてが一生忘れない思い出。
加瀬。
大好きだったよ。
「……西宮」
振り返った加瀬が、照れくさそうに微笑う。
夢を語ったときと同じ顔で。
「俺も───」
朝の光の中で、加瀬が消えていく。
淡い、淡い光に包まれながら。
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