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静かな風がわたしの髪を揺らす。
そこにはもう、加瀬はいなかった。
───幻。
空っぽの窓を見ているうちに。
わたしの目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。
加瀬が亡くなったのは、一ヶ月前。
足の感覚を失う大事故の直後だった。
この教室の、この窓から飛び降りて。
加瀬は、世界のどこにもいなくなってしまった。
彼の遺書には、家族への言葉。
部員への言葉。
友達への言葉。
恩師への言葉。
そして、わたしへの言葉があった。
───頼むから自分を責めんな。
いつか生まれ変わったら、そのときは───
西宮! と呼ぶ声がした。
窓からバッと身を乗り出すと、真下からサッカー部員たちがわたしを見上げていた。
二つに裂かれた退部届を掲げて、彼らが口々に叫ぶ。
「早く部活来ないと、主将泣くぞ!」
「泣かねーよ! 嘘だけど!」
「大会明日っすよ! 西宮先輩、早く来てください!」
涙が、止まらない。
加瀬。
加瀬が愛したものは、わたしが守るよ。
さよなら、加瀬。
逢いに来てくれて、ありがとう。
「───今、行く!」
わたしは窓から彼らに向かって叫ぶと、教室の外へと走り出した。
【Re:birth 完】
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