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「うう、これなら、城に居た方が……でも触手責めは……」
ぶつぶつと独り言を呟く。
それを目ざとく勇者は聞いていた。
「魔王、触手責めとは何の話だ」
さすがに部下に襲われそうになったと話すのは、魔王の沽券に関わる。
だから、できるだけ背筋を張って、
「ふ、別にそういった魔物を城に配置しようかと考えていただけだ」
「城という事は、俺達対策か?」
「ふむ、そういうことになる……ん」
勇者は魔王に軽いキスをした。
ただし、一回ではなく何回も。
「ん、い、いい加減……ん……し……」
この間のように舌を入れるキスでないにせよ、勇者に触れられること自体が魔王にとって媚薬のような効果をもたらす。現に力が抜けて、息も荒くなり、目には涙が溜まっている。
くてっと力が抜けた魔王を抱きしめる。
「まさか魔王がそんな事を考えているとは思わなかった」
やけに優しい笑顔の勇者。
朦朧とする意識の中、魔王は嫌な予感がした。
顎に手を当てて、魔王の顔をくいっと上向きにして
「早めに、自分の立場を体に理解させておく必要がありそうだな」
と、勇者の口の端がつりあがっているのを魔王は見た。
勇者が怒っている。
だがどうしてそうなったのか、魔王にはさっぱり分からない。
なので何を反論したらいいのか分からない。
戸惑っているのが分かったのだろう、勇者がため息を付いて魔王の手を離した。
「……薪を拾ってくる」
あ、私も一緒に行きます、と一番年長らしい神官の男と、先ほどの魔法使いのサライが勇者に付いて行くのが分かった。
そうして森の中に完全に見えなくなった。
「もう、魔王様、駄目駄目ですよ」
とピンク色の髪をした少年が話し掛けてきた。
「……確か、リオだったか」
「治療士のリオです。いいですか魔王様。勇者様は魔王様の事をすっごくすっごく愛してらっしゃいます」
「いや、それは……」
「魔王様を手に入れたい、抱きしめたい、ただそれだけのために全てを投げ打って勇者をやっているのです。だから、勇者様が触手で襲われているのを見たいとか言っちゃ駄目です!」
すぐ傍で、戦士のクリフが大きく頷いている。
そこで魔王は確かにそういう意味に取れると気づいた。
「いや、そのような意味では……」
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