第1章

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 魔王(♂)は森の中を逃げていた。 「はあはあはあ、何故、我がこのような目に……」  いい加減走る事に疲れ、傍にある木に手をつけて息を整える。  そもそもの原因は、全部勇者のせいなのだ。  勇者(♂)を自分の物にしたいが、最近特に勇者は力を付けてきているのでそろそろ経験値を村人Aレベルまで下げようと考えたわけなのだが……。  宝物庫に経験値をゼロにする呪いの首飾りがあった事を思い出し、宝物庫を漁っていた。  そしてその首飾りを見つけたまでは良い。  ついでに首輪とか無いかなぁと変な欲を出して散策しているうちに、なぜか宝物庫に転がっていた黄金のバナナの皮に引っかかり、滑って転んだ。  気がつくと呪いの首飾りが手の中には無く、魔王の首にかかっていた。  しかもこの呪いの首飾り、自分では外せないどころか外し方すら分からない。  困り果てていると直属の部下、四天王(全員♂)の四人が来たので事情を話せば、 「という事は、今は魔王様は何の力も無いという事でよろしいですか?」 「うむ、そういう事になるな」  すると、四人はこそこそと何かを話し、最後に全員で頷いた。  そして、ぐるりと魔王の方を一斉に見る。  その時の魔王を見るめがやけにぎらぎらしていて、魔王は嫌な予感がした。  後で考えると、アレは劣情を宿した目だったのだ。  四天王が、魔王の周りを取り囲む。一人が意を決したように口を開いた。 「実は我々四天王は、密かに魔王様をお慕い申し上げていたのです」 「以前から勇者しか眼中に無い魔王様でしたし、我々も気づかれないようにしていました」 「けれどこのような事態になった今、守って差し上げられるのも我々です」 「そして魔王様に力が無いので、魔王様を手に入れるチャンスも我々にも巡ってきたというわけです。性的な意味で」  いきなりの部下の下克上宣言。しかし、魔王とてだてに長い間魔王はやってはいない。 「まあ待て、お前達は四人いるであろう。まさか四人でとはいくまい」  これで仲間割れを誘発し、全力で逃げようと思ったわけだが。
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