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同じ内容をぐるぐると考えて、魔王はしまいに頭にきた。
それもこれも全部、自分のものにならない勇者が悪い。
「勇者の馬鹿――!」
近くの茂みが、かさかさと音を立てた。
「魔王?」
そこには紛れもなく勇者本人が立っていたのだった。
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魔王は全力で逃げた。逃げなければならないという直感が働いたからだ。
だが勇者はそれにも勝る俊敏さで動き、魔王の襟首を捕まえた。
「離せ、離すのだ!」
じたばたと暴れる魔王。
まずいまずいまずい、何故だがそんな予感がして必死で抵抗して逃げようとするも、勇者の力は思いのほか強く逃げ出せない。
その内に、勇者は魔王を抱き寄せて、魔王の耳元で囁いた。
「お前、魔王だろう?。なんでこんな所にいるんだ?」
魔王は固まった。しかし、
「イエ、ワレハマオウデハアリマセン。ヒトチガイデス」
「ほう、こんな変わった服装をした一般人が他にもいるのか」
「ソウナンデス」
「嘘をつけ! 確かに魔王のような魔力は感じないが、俺が見間違えるはずがない!」
勇者の最後の行で、一瞬ドキッとしてしまった魔王だが、自分をしっかりと持てと意識を奮い立たせる。
「本当に一般人だ。これはこすぷれ?なのだ」
「いや、お前は魔王だ」
「何故そこまで強情なのだ!」
「強情なのはお前の方だろう!。本当に嫌なら魔法でもなんでも使って逃げればいいだろう!」
「ぎくっ」
「……おい」
「……」
「……まさかお前」
「……」
「……魔法が使えない」
「あーあー、聞こえないー」
「……へえ」
楽しそうに勇者が笑うのが聞こえた。魔王は背筋がゾワッとする。
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