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そう、じっと勇者は不安そうに見つめるものだから、魔王も言い出せなくなる。
それにそもそも魔王は勇者の事が嫌いでない。むしろ好きである。あるのだが……。
「沈黙は肯定か。ならいいじゃないか」
「良くない、はーなーせー」
「そうか、魔王は初めてか」
勇者はふっと笑って聞いてくる。それがなんだか余裕で、魔王は悔しい。そもそも、
「わ、我は勇者よりもずっとずっと年上だ! そのような経験など、星の数ほどあるわ」
「嘘だな。もっとも、もし本当なら……」
「本当なら?」
勇者の瞳がすっと細くなる。
「逆らえなくなるまで犯して、俺好みの、俺だけを感じるように体を調教してやる所だった」
「……」
「……」
「……冗談、か?」
それがあまりにも真剣に言われた為笑い飛ばす事ができず、さりとてこの不穏な空気に耐え切れず魔王は聞き返した。が、
「冗談に聞こえるか?」
「はい」
目が怖いので、取りあえず魔王は頷いておく。
「なら襲ってもいいよな」
「それとこれとは別の話だ!」
そんな、生娘のような魔王の反応に勇者は溜息をついて、はだけかけた魔王の胸に顔を埋めた。
「こんなに慣れていない体で、経験があるわけが無いだろう」
「……慣れていなくて悪かったな。お前のように経験豊富ではないのでな」
こんな事をするのは初めてだった。なのに勇者は経験があるのだと思うと、魔王は悲しくなる。だが、
「俺だって初めてだが」
さらっと、勇者が言った。
お互いに沈黙する二人。
木々の葉がさわさわと風で揺れている。いい天気だ。
「魔王……お前、そんなんで俺を飼うとか、どうするつもりだったんだ?」
「いや、傍に居てもらえればそれで」
「……つまり、俺は生殺しにされる所だったんだな」
「む、心外な。口づけ程度は……」
「……いいから黙れ」
勇者は限りない脱力感を感じた。しかし、気を取り直して、
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