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「魔王、お前は今の自分が無力だと自覚しているのか?」
「いや、それは、おそらくは」
「倒す倒さない以前に魔王、お前は何も出来ないだろう。弱すぎて。倒すといって、せいぜい俺が出来る事といえば押し倒す位だが、良いのか?」
良くないので魔王は大きく顔を左右に振った。
「だいたい、腕力だって全然無いじゃないか。下手をすると、ペンより重いものなんて持った事がないんじゃないか?」
「失礼な、ペンは剣より強しと言うではないか!」
「ペンで俺に勝てるのか?」
「……やり方による?」
「やっぱりこのまま襲うか」
「ゴメンナサイ、ダカラワレヲオソウノハヤメテ」
「どの道、食事やら何やら、生きていく術はあるのか、魔王は」
魔王は考えた。何不自由ない、城の生活。たまに戦う事があるとはいえ、本を読む、魔族の書類の処理、等々。
どうしよう。
「しばらく俺に囲われろ。いいだろう?」
「囲うって、我は……」
「逃がすつもりは無いから、もういい。こんな問答をしていても意味が無い」
勇者が魔王の上からどいていく。
その隙に逃げられないか、算段するも、経った瞬間に足払いをかけられてバランスを崩したと思うと、勇者にお姫様抱っこされていた。
勇者が意地悪く笑って囁いた。
「俺から逃げられると思うなよ?」
こうして、魔王の受難は始まったのだった。
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そんなこんなで一緒に旅をすることになった魔王だったが、現在魔王は怒っていた。
「勇者の薄情者!」
「だから悪かったって」
「うう、何故にかの魔物達は我に寄ってくるのか!」
「魔王様を取り戻そうとしている、とか?」
「だったら何故舐める!」
さきほど狼形の魔物が五匹ほど現れたのだが、いきなり魔王向けて走りだしたかと思うと、懐くようにペロぺロ舐め始めたのだ。
特に危害を加える様子も無いので少しの間勇者は放って置いたのだ。
決して魔王が上げる悲鳴に、少しだけ嬌声が混じっていたからという訳ではない。
まして、息を荒げて顔を赤くした魔王が可愛かったからというわけでは断じてない。
恨めしそうに、魔王はこちらを見ている。
話題を変えようと、疑問に思う事を勇者は口にする。
「確かに、魔物との遭遇率が高い気がするが……」
先ほどといい、普段の5倍近くの量である。と、
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