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「……魔王がいるからだ」
ポツリと、勇者の仲間の魔法使いが言った。
それに気付いた勇者が、
「何か知っているのか? サライ」
「魔物は、同じ魔物同士であっても敵になることもある。低級な魔物は動物とほぼ変わらない。人を獣が襲うように、魔物も人型の魔物である魔族を襲う」
「なら、魔王だけが特別、なのか?」
それに、魔法使いは頷く。
「魔王は違う。全ての魔物を統べる王にして、敬愛すべき神のごとき存在であり、どのような魔物でも例外はない……と言われている」
「なら、サライ、魔族とのハーフのお前は魔王に従うのか?」
勇者は魔王が、魔族とのハーフと聞いて嬉しそうな顔をしているのが気に食わない。が、
「勇者様、がんばれ」
サライは親指を出してガッツポーズをする。
彼は勇者の味方だ。
それを聞いていた魔王が一転して絶望的な表情になり、
「先ほどいっていた話と全然違うではないか!」
「いえ、魔王様、私は半分は人間ですから。そもそも人間側で育ったので、魔王様側ではありません」
「我の味方は何処にもいないのか!」
「え、いるじゃないか。ここに」
勇者が自分を指差す。
少し黙って魔王は考えて、
「……勇者は、その、我を襲おうとするではないか」
「さっきだって襲われた魔物を倒しているのに?」
「その事には感謝しているが……」
「明日楽しみだな」
「!」
この前ベットの上じゃないと嫌だといった事を、勇者は着実に守っていた。
そして昨日の夜も、魔王をただ抱きしめて眠るだけだった。
だが、その分明日は確実に犯される。
本当に今のキスだけでどうにかなりそうなのに、明日なんてどうなってしまうのだろうと魔王は思った。
「逃がさないからな」
真っ赤になっている魔王の淡い色の髪を一房掴みし、勇者は口づけする。
勇者のその目は獲物を見る目だった。
ああ、逃げられない、と魔王は確信する。
だからといって、そのまま言う事を聞くかどうかは別問題で。
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