第1章

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「……魔王がいるからだ」  ポツリと、勇者の仲間の魔法使いが言った。  それに気付いた勇者が、 「何か知っているのか? サライ」 「魔物は、同じ魔物同士であっても敵になることもある。低級な魔物は動物とほぼ変わらない。人を獣が襲うように、魔物も人型の魔物である魔族を襲う」 「なら、魔王だけが特別、なのか?」  それに、魔法使いは頷く。 「魔王は違う。全ての魔物を統べる王にして、敬愛すべき神のごとき存在であり、どのような魔物でも例外はない……と言われている」 「なら、サライ、魔族とのハーフのお前は魔王に従うのか?」  勇者は魔王が、魔族とのハーフと聞いて嬉しそうな顔をしているのが気に食わない。が、 「勇者様、がんばれ」  サライは親指を出してガッツポーズをする。    彼は勇者の味方だ。  それを聞いていた魔王が一転して絶望的な表情になり、 「先ほどいっていた話と全然違うではないか!」 「いえ、魔王様、私は半分は人間ですから。そもそも人間側で育ったので、魔王様側ではありません」 「我の味方は何処にもいないのか!」 「え、いるじゃないか。ここに」  勇者が自分を指差す。  少し黙って魔王は考えて、 「……勇者は、その、我を襲おうとするではないか」 「さっきだって襲われた魔物を倒しているのに?」 「その事には感謝しているが……」 「明日楽しみだな」 「!」  この前ベットの上じゃないと嫌だといった事を、勇者は着実に守っていた。  そして昨日の夜も、魔王をただ抱きしめて眠るだけだった。  だが、その分明日は確実に犯される。  本当に今のキスだけでどうにかなりそうなのに、明日なんてどうなってしまうのだろうと魔王は思った。 「逃がさないからな」  真っ赤になっている魔王の淡い色の髪を一房掴みし、勇者は口づけする。  勇者のその目は獲物を見る目だった。  ああ、逃げられない、と魔王は確信する。  だからといって、そのまま言う事を聞くかどうかは別問題で。
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