僕のヒヤシンス

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教室の戸を開けたら、そこには先輩が立っていた。外は雨が降って、風も物凄く強いのに、先輩は窓を開けて、外を眺めながら佇んでいた。 先輩の長い髪が風で揺れている。 先輩の横には、紫のヒヤシンスが入った花瓶が飾られている。その花言葉がなんだかは忘れてしまったけど、綺麗だ。 「あ…」 僕はどうやって話しかけたらいいかわからなくて、詰まった様な声を出してしまった。 その声で先輩は僕に気付いて、振り向いた。 「こんにちは、後輩君」 「また、その呼び方ですか…」 先輩は悪戯に笑うと、僕に近付いてきた。 「話って?」 「あ、えっと…」 先輩は今日で卒業する。 一週間前、僕は先輩に話があるから、卒業式が終わったら教室で待っていて欲しいと約束をした。 僕は先輩が好きだ。勿論、異性として。だから、僕は先輩に告白するために、話す約束をした。 …きっと、振られるだろうけど。 それでも、思いを伝えないと。分かってても、それを意識すればする程に、なんて言えばいいか分からなくなっていく。 「今日は…天気が悪いですね…、せっかく最後の日なのに…」 だから僕は、取り敢えず雑談から始めることにした。 「そう?私は好きよ、雨」 「…好きそうですもんね」 先輩は少し変わってる。でもそれも含めて僕は先輩が好きだ。 「そんな事話に来た訳じゃ無いでしょ?もっとも、一週間前に約束した時点で、いつも雨の日に傘を忘れてたあなたが、今日が雨だなんて知るよし無いものね?」 「…」 先輩は、僕を追い詰めるのが上手い。多分、いくら雑談しようとしても、このやりとりの繰り返しだ。 意を決して、僕は深呼吸をして昨日の夜に練習した言葉を頭に思い浮かべながら、口を開いた。 「先輩と初めて出会ったのって去年の十月でしたよね」 「ええ、あなたが美術部に入部してきた月ね」 僕は喉が苦しくなるのをぐっと堪えて、話を続ける。 「先輩、僕の名前、呼んでくれたこと無いですよね」 「ええ、後輩君って呼び方がしっくり来るから」 僕は、拳を握って、溢れてきそうなものをもっと堪らえる。 「僕は…先輩…いや、美香さん……僕は美香さんが……好き…です。もし、付き合って貰えるなら…僕の名前を呼んでください」 先輩は特に表情を崩すことなく、僕の目をじっと見詰めた。僕も、既に堪えきれなくなった涙を流しながら、先輩を見つめる。
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