0人が本棚に入れています
本棚に追加
約束の八時。
ぼくは、サイバーゴーグルをかけて、トロピカルプランツにログインした。
ぼくの視界に熱帯の森がひろがった。
ここが、トロピカルプランツ。
街は廃墟と化しており、熱帯の森に埋れている。
やがて、ぼくの前に、青白い発光体が現れ、次第に人の姿をとっていった。
約束通りだ。いとちんの姿が、おぼろげに浮かびあがる。
「お待たせ。かっちゃん」
いとちんが言った。
「いや。ぼくもいまログインしたところだよ」
ぼくがそう答えたときだった。
大型のトビハネエイが、滑空しながら、いとちんに毒霧を吹きつけてきた。
いとちんは、たくみにそれを避けると、手にした剣で、トビハネエイを真っ二つにした。
さすが、いとちんだ。
「やるな。いとちん」
「たいしたモンスターじゃない」
いとちんは、剣を鞘におさめながら、
「ザコだ」
そう言って、にやりと笑った。
「タウンオブトロピカルプランツ」略称「トロピカルプランツ」は、ネットワーク上の仮想世界だ。
正式に言えば「電脳空間」とか、「サイバースペース」とか言うらしい。
だけど、ぼくらにとって、そんなことはどうでも良くて、思いきり遊べるもう一つの世界なのだ。
トロピカルプランツには、モンスターや得体の知れない生き物、川には人喰いピラニアまでいるが、レベル8まで行ったぼくらは、まず無敵だ。
モンスターを倒すごとに、体力や戦闘能力がレベルアップするので、初めて出会うモンスターでも、戸惑うことは、ほとんどない。
まかり間違って、倒されてしまっても、バックアップを小まめに取っておけば、またそこからやり直すだけのことだ。
そのとき、ぼくといとちんの前に、もう一つな発光体が出現した。
その発光体は、やがて人の形をとり、ほっそりとした少女の姿となった。
フローラだ。
フローラとは、しばらく前から、パーティを組んでいる。
現実のフローラが誰なのかは、ぼくも、いとちんも、知らない。
トロピカルプランツの中で知り合って、行動を共にするようになったのだ。
「さあ、行きましょうか」と、フローラは言った。
最初のコメントを投稿しよう!