熱帯植物街

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約束の八時。 ぼくは、サイバーゴーグルをかけて、トロピカルプランツにログインした。 ぼくの視界に熱帯の森がひろがった。 ここが、トロピカルプランツ。 街は廃墟と化しており、熱帯の森に埋れている。 やがて、ぼくの前に、青白い発光体が現れ、次第に人の姿をとっていった。 約束通りだ。いとちんの姿が、おぼろげに浮かびあがる。 「お待たせ。かっちゃん」 いとちんが言った。 「いや。ぼくもいまログインしたところだよ」 ぼくがそう答えたときだった。 大型のトビハネエイが、滑空しながら、いとちんに毒霧を吹きつけてきた。 いとちんは、たくみにそれを避けると、手にした剣で、トビハネエイを真っ二つにした。 さすが、いとちんだ。 「やるな。いとちん」 「たいしたモンスターじゃない」 いとちんは、剣を鞘におさめながら、 「ザコだ」 そう言って、にやりと笑った。 「タウンオブトロピカルプランツ」略称「トロピカルプランツ」は、ネットワーク上の仮想世界だ。 正式に言えば「電脳空間」とか、「サイバースペース」とか言うらしい。 だけど、ぼくらにとって、そんなことはどうでも良くて、思いきり遊べるもう一つの世界なのだ。 トロピカルプランツには、モンスターや得体の知れない生き物、川には人喰いピラニアまでいるが、レベル8まで行ったぼくらは、まず無敵だ。 モンスターを倒すごとに、体力や戦闘能力がレベルアップするので、初めて出会うモンスターでも、戸惑うことは、ほとんどない。 まかり間違って、倒されてしまっても、バックアップを小まめに取っておけば、またそこからやり直すだけのことだ。 そのとき、ぼくといとちんの前に、もう一つな発光体が出現した。 その発光体は、やがて人の形をとり、ほっそりとした少女の姿となった。 フローラだ。 フローラとは、しばらく前から、パーティを組んでいる。 現実のフローラが誰なのかは、ぼくも、いとちんも、知らない。 トロピカルプランツの中で知り合って、行動を共にするようになったのだ。 「さあ、行きましょうか」と、フローラは言った。
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