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いとちんは、もうトロピカルプランツにいて、川岸でぼくを待っていた。
しばらく待ってみたが、フローラは姿を見せなかった。
何か用事でもあるんだろう。
ぼくといとちんは、二人で前に進むことにした。
川を渡っていた、ぼくといとちんは、両足に強いしびれを感じたので、あわててシールドをはった。
ぬめっとした光沢をした魚が、ときおり体の一部を水面にあらわしながら、うねるように川を泳いでいる。
雷神肺魚とかいうヤツだ。
こいつは、強い電気を出して、相手をしびれさせる。
いとちんは、剣をふりあげると、勢い良く雷神肺魚に突き立てた。
雷神肺魚は、ひと突きで、ぐったりとおとなしくなった。
「いとちん…どうしてそんなザコなんか…」
「かっちゃん。知ってるかい?」
いとちんは、にやりと笑った。
「雷神肺魚は、焼いて食べるとうまいらしいぜ」
ぼくといとちんは、木の枝や木の葉を拾い集めると、サイバーライターで火をつけた。
木の枝に刺した雷神肺魚を、火にあぶると、うまそうな匂いがあたりに漂い、魚の油が炎にしたたり落ちた。
やがて、ぼくといとちんは、丸焼けになった雷神肺魚を、まわしかぶりした。
雷神肺魚はうまかった。
ウナギをもっと上品にした味だ。
サイバネティクス社は芸が細かい。視覚や聴覚はもちろん、味覚や嗅覚まで、サイバースペース上で、再現してくれている。
翌朝、ぼくが教室に入ると、隣の席のいとちんが、また声をかけてきた。
「かっちゃん。ぼく、こんな噂を聞いたんだ」
「なんだよ? 噂って」
「トロピカルプランツの奥には、森の王がいるって」
「森の王?」
「うん。登校途中に四組の矢萩から聞いたんだ。矢萩、レベル24まで行ってるんだって」
「レベル24か! すごいな!」
「その矢萩が別のパーティの一人から聞いたんだって。トロピカルプランツの奥には、森の王がいる」
「森の王かあ」
「レベルの高い子たちの間じゃ、けっこう有名な噂なんだって」
そのとき、担任の羽柴先生が、一人の女の子を連れて、教室に入ってきた。
「今日は皆さんに転校生を紹介します」
女の子が顔をあげた。
「初めまして。松川みどりです」
ぼくと、いとちんは、顔を見合わせて、いっせいに叫んだ。
「フローラ!」
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