第1章

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米山サービスエリアの展望台からの日本海の眺めは本当はもっと美しいはずですが、今日は重苦しい灰色の雨雲が立ち込めております。 もうお気付きかと思いますが僕はこの企画でハーモニカを吹く際には携帯電話やデジカメのような物を持たずに出かけます。今見ている世界を視覚だけで切り取れば写真が手っ取り早いのは言うまでもありませんが、僕が伝えたい事はその場の音であり、匂いであり、手触りだったり、あるいはもっとぼんやりした雰囲気だったりします。 米山サービスエリアの店内に一歩足を踏み入れると「ごじゅうはちばん」「てんぷらうどんの方」とダミ声で叫ぶフードコートの店員の声が聞こえます。日曜の夕方6時半はそりゃ混み合うでしょう。「ごじゅうはちばん」「ごじゅうはちばんの方」ごじゅうはちばんがなかなかやって来ないらしいです。人が一生懸命作ったのに。 一生懸命呼んでいるのに。 「ごじゅうはちばん」 そんな声を聞きながら展望台の一番奥を目指します。今朝仕込んだばかりの曲です。 時には昔の話を 展望台には誰もいません。誰か来たらどうしようと言う気持ちと、誰かに来て欲しい気持ちが混じり合って気持ちが高まります。僕がこうしている間も世界は動く。ごじゅうはちばんはお腹を空かせたまま何かに気を取られ自分が大声で呼ばれている事に気付かない。願わくはてんぷらうどんが伸びる前に、気付いて欲しいものです。静かな夕暮れでした。 また明日。
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