第1章

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朝がずいぶん涼しくなってきて今年の夏の短さを実感しています。目の前に広がる日本海の白い波は映画のように音を立てて、僕の演奏をないがしろにします。 海 その愛 新潟市西蒲区角田浜の灯台への登り口の岩場で、朝っぱらからやってます。 いい波を目の前にサーファーの血が騒いでいます。ボードは持っていないんですが、まあ正直、サーフィンをやった事すら無いんですが、サーファーの血が騒いでいるんです。とにかく血が騒いでいます。 うおーっと叫ぶ代わりにハーモニカを精一杯吹きます。吸います。ハーモニカと言う楽器は大きな音を出そうとしても答えてくれない。空気を出し入れするスピードをコントロールするんだ。強くじゃない。速くだ。そうすると、ほら、大きい音になる。弱くじゃない、ゆっくりと、だ。小さい音も大切だ。大丈夫。僕は冷静だ。 時折、波の音が静まり返ります。お前の番だ。存分に吹くがよい。存分に吸うがよい。厚い雲の隙間から朝日が筋のように僕を照らしています。するとどうでしょう。天使の階に吸い込まれるように、体が軽くなり、角田浜が、新潟が、日本が、アジアが小さく見えます。地球は青かった。キュウリを漬けた青カッパ。宇宙が呼んでいる。皆さんさようなら。 「ねえ、帰ろう」 と、ブチ切れズボン(10)が言っています。灯台に登ろうと喜び勇んで来たはいいけれど雑草が生い茂って行く手を阻まれて断念したばっかりの不機嫌の塊です。かき分けかき分け行けよ!なんて言い争ったばかりでして、なんともお恥ずかしい。 こいつもそうだけど、うちの家族は揃って僕の演奏をないがしろにします。もうあんたらには何も求めない。我泣き濡れてカニとたわむる。 ああ、風が涼しいな。気持ちいいな。 また明日。
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