第1章

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確かに連日演奏は出来ていますが、お客さんの暖かい拍手や笑い声にトンとご無沙汰しておりまして、何しろ河口で跳ねる魚や視界を横切る海鳥相手に演奏しても張り合いが無いったらありゃしない。美しい…なんていっくら強がったところで向こうは振り向きもしない。 夕方4時半、いきなりぷらっと行ってお客さんがいっぱいいて僕の音を受け入れてくれるそんな素晴らしいところが近くに無いもんだろうか? あるんです。 新潟市西蒲区の老人ホーム、回生園さんにセイプクチンも引き連れて、おじゃましてまいりました。うはーいるいる。20人くらいでちょうどお茶飲みタイムでした。「どうもどうもー」なんて軽くご挨拶して童謡や唱歌を吹くんですが、何をやってもウケます。もちろんジャズはやりません。知ってる歌ってのは強い。 旅愁 口ずさむ声が聞こえます。昔覚えた歌は忘れない。一緒に歌ってください、サンハイなんつってゆっくり吹きます。 人は誰も年をとっていきます。僕もやがてはこういうところにお世話になるのかもしれない。今もじもじしているセイプクチン(5)におじいちゃん来たよ~なんて言われんのかなあと思うと鼻の奥がジワッとします。 「今日の晩ご飯は何ですか」とか、「ウチは今夜は納豆ご飯です」とか何を言ってもウケます。「前歯がお綺麗で、大変結構ですな」と握手したら最後、なかなか手を離してくれません。では次の曲です… こうやって、僕の音楽は僕の音楽になっていくのでしょう。上手くなるためにも、長生きしなきゃいけない。皆さん、長生きしましょう。 また明日。
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