第1章

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長岡駅前の音楽食堂って言う店がありますが、そこの交差点を中心にして間逆の一角です。果物屋さんですか。そこにベンチがありまして、ベンチがあるってことは座ります。座って交差点側に柵がありまして、その柵にはですね、豹柄のハイヒールが一足、つまり右足左足セットで吊り下げてありました。 僕はこの持ち主のいないハイヒールに話しかけるよう演奏する事に決めました。車は音を立てて止まり、また動き出します。誰かさんの楽しそうな声が近づいては遠ざかります。目を閉じると、ここでハーモニカもなかなかいいもんじゃ無いか。なあ母さんや。と少し気が大きくなります。 Waltz for Debby おお、ハイヒールがあるだけでこんなにも芸術っぽくなるものか。 いつからそこにあるのか、いつまでそこにぶら下がっているのか。いい。いいよ、その佇まい。この大都会のど真ん中で君だけだ。僕の音を聴いてくれるのは。 この夏は僕にとって音楽的な収穫が非常に大きかったもので、つい、こうしているべき領域からはみ出したいという欲求が強くなってきます。 お近くにお住まいの方は、豹柄のハイヒールがぶら下がっているかどうか、何かのついでに確かめに行ってみて下さい。 また明日。
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