第1章

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関川と保倉川が合流しながら海に注いでいます。向こう側の細長い堤防の先端には灯台が立っています。釣り人が絶妙な間隔で陣取って釣り糸を垂らしています。風が吹いてきました。 僕も川沿いの堤防によじ登って、ハーモニカを鳴らす事にしました。夕方6時半を過ぎた頃の直江津での事です。 釣りの事はよく分からないので関わらない様にしようと思ったのですが、景色の美しさに負けて釣り人の絶妙な間隔に従ってこんなもんかなというポイントを勝手に選んでコンクリートに座ります。釣り人、釣り人、釣り人、ハーモニカ、あれ?ハーモニカ?二度見、みたいな感じです。 こういう場合どうなんでしょう。お魚さんたちはハーモニカの音を警戒して釣れにくくなるもんなのでしょうか。だったら面白い。音がうるさいと釣り人が文句を言ってきたらどうしよう。 無視して吹き続けようか。もういっぺん言ってみやがれって言ってやろうか。てめえの腕が悪いのを棚に上げてだな…って言ってやろうか。すんません…って帰ろうか。 とりあえず、誰も文句を言いに来ません。なんなら、釣れますか?って聞きに行こうかな。 そんな人間の思惑を置き去りに、この汽水域は夕闇の濃さに比例して美しくなっていきます。時折トップンと波が音を立てます。 ニューシネマパラダイス 海の方角から水面を滑るように黄色、青、赤のランプを灯した何かがこっちにやってきます。船でした。 目の前の水面を派手な電飾の船がズザーッと左から右へ、海の匂いを撒き散らしながら通り過ぎて行きました。釣り人に少しでも気を使った事が恥ずかしくなるような大波と小波がトポチョン、トポチョン、トポトポチョンといつまでも音を立てていました。 振り返ると真っ暗な夜空に水墨画みたいな月が、にじんでいました。 また明日。
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