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鬼を中心に阿鼻叫喚となった人の輪をすり抜ける。
「はい、ごめんよー。ちょっと通してねー」
短い断末魔を上げて3人倒れた。ハロルドさんが引き付けてくれているので、俺がまだ賞金首の勇者だと気付かれていない。
弘信たちによると、6階の東階段そばに執務室があるって話だったな。どっちだよ東。
走り出した俺の後ろで轟音が鳴り響いた。うん、ハロルドさんとは今後とも良い関係を築いていきたいと思う。
「お、階段みっけ」
誰もいない階段を駆け上がり、6階へと足を踏み入れる。
5階までも豪華だと思ったが、6階はそれ以上に金をかけているようだった。壁や扉にレリーフが施されている。
一度しか会っていないが、なんか皇帝のイメージじゃないな。皇帝はなんか、こう、質実剛健!て感じに見えたけど。
一番近くにあった扉のドアノブを回すとすんなりと開いた。こちらも豪華な観音開きの扉だ。
「あぶねっ」
開いた途端、中から鋭利な何かが真っ直ぐ俺の心臓部目掛けて近付いてきた。なんとか身体を捻ってかわす。
「んん?」
刺すべき場所を失ってつんのめる後ろ頭を見て、不思議に思った。ケモミミが生えていたからである。
ジストア帝国は人間至上主義であり、差別意識が根強い。奴隷として使う奴もいるが、皇帝の住む城で使う奴なんかいるはずがない。
ケモミミは再び俺に斬りかかろうと振り返る。ヴァルと同じくらいの年齢と思しき亜人の手にはナイフが、手首には重々しい鈍色の拘束具があった。
「ちょっ、タンマ!」
亜人は俺の言葉など聞こえないとでも言うように、躊躇いなく突進してきた。
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