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「もしかしてゆーしゃさまー?」
少年は5歳の年齢に合わせた舌っ足らずな声を出して首を傾げる。
目深に帽子を被っているので勇者の顔は確認出来ないが、胸元につけているピンバッジには王家が独占している宝石があしらわれているから間違いはないだろう。
光の加減で緑にも青にも見えるバッジを煌めかせながら、若い男は照れたように答えた。
「まぁ、そうなるかな」
曖昧な返事に若干の苛つきを覚えるが、ぐっと堪える。
ここで彼を逃すわけにはいかない。
「ぼくねーゆーしゃさまとあくしゅしたいー」
満面の笑みを浮かべて手を差しのべる子供を、無下にする奴はそうそういないだろう。
案の定、勇者は左手で頬を掻きながら、困ったような笑みを浮かべて握手に応じた。
その手を少年は離すまいと握り込む。
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