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少年は態度を一変させ、酷薄な笑みを口元に刻んだ。
「ちょろすぎんだろ勇者様よ。あぁ、ハシグチ アキトって言った方がいいか」
様子が変わった少年から手を離そうとアキトは腕を引くが、少年の手ではないなにかに手首を固定されたように動かない。
「は、離してくれっ!」
「まぁそう喚くなよハシグチ アキト。俺はお前を現実世界に還してやろうとしてるんだ。嬉しいだろ?」
アキトは目を見開いたまま固まってしまった。
この異世界に飛ばされてから1年余り。帰りたい心と折り合いをつけて、冒険者として生きていくのも悪くない、なんて思っていた矢先に降ってわいた希望。
この小さな少年の言うことが本当かどうか、アキトにはわからない。虚言である可能性は非常に高い。
だが、もしも。
彼の言っていることが本当だとしたら?
(俺は、帰ることが出来るのか?)
アキトの胸には封じ込めていた日本での思い出が一気に溢れ、ついには零れて頬を濡らしていた。
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