小さな王

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「帰り、たい…」 少年と手を繋いだまま、その場に膝をつくアキト。 少年はそんなアキトの様子を穏やかな笑みを浮かべて眺めていた。 「あぁ、還してやるから泣くな。時間と身体ステータスは戻るが記憶はそのまま残る。が、間違ってもまた来たいなんて思うなよ?俺が戻してやれるかわからないからな」 少年の言葉に、アキトに一瞬迷いが生まれた。 (俺が居なくなったらフロレンシアはどうなるんだ?) アキトの脳裏に王女フロレンシアの姿が浮かぶ。 アキトを頼りにしていると笑いかけてくれた顔。 月明かりの下、国を憂えて涙を流し、アキトに心配をかけまいと大丈夫と言って微笑んだ彼女。 王位継承権を持たない妾腹の子である彼女は、城の中で孤独だった。 1年近くかけてやっと寄り添えた彼女と離れるのが、本当に自分の望みなのか、アキトはわからなくなる。 「フロレンシア…」 思わず零れた愛しい人の名前を、少年は聞き逃さなかった。
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