小さな王

6/10

137人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
「フロレンシア…この国の王女だな。なんだ、惚れでもしたか?」 「悪いかよ!」 アキトは赤くなった顔を少年に真っ直ぐ向ける。 膝をついたことで、帽子を被っていても少年の顔が見てとれた。 金色の目を泳がせながら、「悪いとは言ってないだろ…」とごにょごにょと口の中で呟いている。 「まぁ、なんだ、お前はこの世界には元々存在し得ない存在だ。気落ちするなとは言わねぇが、現実と向き合うこったな」 口は悪いが、アキトを励まそうとしている優しい気持ちが伝わって、少年に感謝を伝えたくなった。 「君の名前を教えてくれ」 「あん?なんで?」 アキトは苦笑してしまう。 「この世界の最後に、恩人である君にお礼が言いたいんだ」 少年は面食らったように一瞬固まり、次には照れたように笑って言った。 「俺はヴァル。『魔王』ヴァルフリートだ。勇者アキト、さよならだ」 アキトの身体が光に包まれて、ヴァルと繋いでいた手が離れる。 「《かの者が在るべき場所へ還れ》」 ヴァルの言葉に呼応するように光が集束し、消えた。 そこには勇者アキトの姿はなく、アキトが滴らせた涙の水滴だけが残っていた。 「元気でな、アキト」 ヴァルは呟き、帽子を目深に被り直した。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

137人が本棚に入れています
本棚に追加