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「フロレンシア…この国の王女だな。なんだ、惚れでもしたか?」
「悪いかよ!」
アキトは赤くなった顔を少年に真っ直ぐ向ける。
膝をついたことで、帽子を被っていても少年の顔が見てとれた。
金色の目を泳がせながら、「悪いとは言ってないだろ…」とごにょごにょと口の中で呟いている。
「まぁ、なんだ、お前はこの世界には元々存在し得ない存在だ。気落ちするなとは言わねぇが、現実と向き合うこったな」
口は悪いが、アキトを励まそうとしている優しい気持ちが伝わって、少年に感謝を伝えたくなった。
「君の名前を教えてくれ」
「あん?なんで?」
アキトは苦笑してしまう。
「この世界の最後に、恩人である君にお礼が言いたいんだ」
少年は面食らったように一瞬固まり、次には照れたように笑って言った。
「俺はヴァル。『魔王』ヴァルフリートだ。勇者アキト、さよならだ」
アキトの身体が光に包まれて、ヴァルと繋いでいた手が離れる。
「《かの者が在るべき場所へ還れ》」
ヴァルの言葉に呼応するように光が集束し、消えた。
そこには勇者アキトの姿はなく、アキトが滴らせた涙の水滴だけが残っていた。
「元気でな、アキト」
ヴァルは呟き、帽子を目深に被り直した。
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