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ヴァルが肩を上下させて呼吸を整えている間に、足音が近付いてきていた。
「ヴァル様!?」
ノックもせずに勢いよく開けられた扉の向こうには、普段あまり見ないような表情をしたハロルドがいた。
ハロルドが姿見の前でへたりこむ主君の姿を見て、安堵の色を浮かべる。
「良かった…ずっと眠っておられたのですよ」
「なんも良くねぇよ、なにこれ」
ヴァルは震える手で鏡を指す。今までの服が入らなくなったからだろう、ハロルドのものと思しきだぼだぼのシャツを着せられていた。ちなみに下は下着しか穿いていない。もしヴァルが元気な状態なら、彼シャツか!とツッコんでいたところである。
ヴァルは再び鏡に目を向ける。そこに写る姿に驚いたのは成長したからだけではない。黒髪だけは変わらないが、金色の瞳は縦に瞳孔がはしり、耳はさながらエルフのように尖っている。犬歯も以前よりは伸びているし、これでは先程会った人物が若返ったと言った方が近い。
「ヴァル様ー!」
呆然と鏡を見つめていたヴァルは、突然の衝撃になすすべもなく倒れこんだ。身体にかかる柔らかい重みに、全身が悲鳴をあげる。
「いだだだだだだ!!!ちょっ、お願い、どいて!!!」
涙目で訴えると、飛び付いてきたリアンが身体を起こした。その顔は既に涙でぐちゃぐちゃである。
「ばる様が起きたー良かったよぉー」
へたりこんで大泣きするリアンに、今更ながら心配をかけていたことに気付く。涙声で名前の発音が出来ていなかったことには目を瞑ってやろうと思うヴァルである。
扉の前で立ったままのハロルドに目を向け、謝罪の言葉を口にした。
「心配かけて悪かった。どのくらい寝てた?」
「丸5日になりますな」
「そんなに!?」
そこでヴァルは気を失った原因を思い出した。
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