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「あぶねーだろが!」
手刀で亜人の手を強打し、ナイフを落としたところですかさず遠くへと蹴り飛ばす。この子供を斬ることを躊躇ったからだ。
子供からは表情が抜け落ちていた。俺を殺そうと突っ込んできても、手を強かに打たれても、眉ひとつ動かさない。
そこには殺意なんて微塵もなくて、俺は戸惑う。敵意剥き出しで目を怒らせて斬りかかってくる兵士は迷わず斬れるのに。
何も映していないような瞳は、先程開けた部屋へと真っ直ぐに向けられていた。
「何をしている!早く殺せ!さもなくばお前を殺すぞ!」
部屋の中から怒声が響く。おいおい随分な言い方だな。
その声にピクリと耳を動かし、蹴り飛ばしたナイフへと向かおうとする。
その腹に拳を埋めた。
「ちょおっと寝ててね」
苦しげにだが、初めて表情を見せた子供を壁に凭れさせる。やけに綺麗な顔をしてるからどっちかわからなかったが、女の子だった。
ゴテゴテした建物の中でボロい貫頭衣と、犯罪者でさえも無縁と思われるゴツい手錠のみを身に付けた少女。
つまり、そういう意味の奴隷なのだろう。
俺は扉が開きっぱなしの部屋へと向かった。
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