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魔族と勇者が去った後、宰相たちは長い長いため息を吐いた。
皇帝が姿を消し、執務机の中に「勇者に狙われている」ことを仄めかす手記を見付けてすぐ、ブダルの私兵によって捕らえられ、監禁された。
近衛師団がブダルの私兵の目を掻い潜り、情報だけは流してくれていたが、宰相たちは聞かなければ良かったと頭を抱えるしかなかった。
ブダルのあまりの行動の早さに、皇帝の誘拐がブダルの仕業なのではと疑うほどであった。
そして、扉は魔族の手によって開かれた。
ブダルが手慰みに囲っていた亜人の少女の姿も、そこにはあった。案内をしたようだ。
皆殺しにされるのを覚悟していた宰相たちだが、要求を飲むと魔族はあっさりと撤退していった。
驚くことに、ブダルの私兵が何人か斬られていたことを除けば、城に駐在していた近衛師団にさしたる被害は見受けられなかった。
「レーヌ…まさか『識者』か?」
ローブを纏った子供が呼んだ、レーヌという名。
それが本当に『識者』なのだとしたら、従うのはただひとりである。
「あの少年は…」
宰相の呟きは誰にも聞かれることはなく、虚空へと消えていった。
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