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「この道通りかかったら公園から一人で歩いてくるのが見えて。今日は自転車は?」
「あの・・親がたまたま送ってくれて、帰りはバスで行こうかと・・」
口にしてから真央は心の中で苦った。名前も知らない男に何を正直に話しているのかと。
「家ここから遠いの?」
「まあ、バス乗るくらいですから・・」
これ以上下手な事をしゃべってしまわない様、真央は慎重に言葉を選んだ。
「乗ってく? 俺今ちょっと時間あるし、家の近くまで送るよ」
車からガチャッとドアロックが解錠される音がした。
「とんでもないです。知らない男の人に送ってもらうわけには───」
「竹野だよ」
「はい?」
「竹野っていうの、俺の名前。別に悪い事しようとか全然ないから────ただ昨日の事謝りたくて・・」
「・・謝ってもらう事なんかないです。二回も自転車の鍵のことでご迷惑かけて、こっちこそすみませんでした」
「うん・・いや・・・・あのさ、決してナンパとかじゃないから乗ってくれないかな。そろそろバス来ちゃう・・」
男に言われて車の後方に目をやると、確かに向こうの方にバスが小さく見えた。
「・・・本当に送ってくれるだけですか?」
ボート部で腕っ節には自信があるとはいえ、所詮高2の女子である真央は用心のためカバンからスマホを取り出して、男に見せ付けるように握った。
「ホント送るだけ。さ、乗って乗って────家あっちのほうだよね」
「はい・・・ていうかよく覚えていますよね」
「別に後をつけたわけじゃないよ。初めて会った時、辺り暗かったから君が帰るの結構長い時間見てたんだ」
「そ、そうなんですか・・」
「君さ────ごめん、名前何ていうの? 君って言い慣れなくて・・何か上からの物言いで苦手」
「え、ああ・・真央です。田中真央です」
「田中さんだね。俺は竹野光司(たけのこうじ)」
「はい、えと・・その節は通りすがりのところ鍵探しを手伝ってもらってありがとうございました」
「いえいえ・・それは別の人が拾って田中さんに届けたわけだから、俺の働きはノーカウントだよ」
「でも・・あ、そこのコンビニを左にお願いします」
「了解」
当たり前の様にナビをしながら真央はふと疑問に思ったことを口にした。
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