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「被害者って婚約者じゃなくて? え? そもそも未来ってなに。てか俺が婚約なんてできるわけ――…」
混乱する俺に向かって瑞希さんは腕組みして堂々と言った。
「あんたと23才から5年付き合って、3年目にプロポーズされた。なのに28才でフラれたの。これが裏切りじゃなくてなんて言うんだよ! 私の純情を返せ、この裏切り者!」
思わず「それは悲惨な」と呟くと「誰の所業よ」と怒られた。
「――…瑞希さんが婚約者さんにフラれたのはお気の毒だと思うんだけど、俺には関係ないっていうか……」
「関係ある! それはあんただから!」
証拠見せてあげる、と言って瑞希さんが自分の腕時計のボタンを押した。すると、空中にブワッと半透明の写真の束が浮かび上がった。すごくたくさんある。
瑞希さんが空中に浮かんだ半透明の写真の中からいくつか指で選び出し、俺の前に飛ばした。
「これが翔ちゃんの誕生日。これが同棲記念日。これがプロポーズの日……」
空中にふわふわと飛んできた写真をそうっと見る。そこに写っていたのは瑞希さんと……少し老けた俺。大きなケーキの前でピースして写っている写真。カーテンもついていない家の中でじゃれ合っている写真。薬指に指輪を光らせて微笑んでいる瑞希さんとその隣で照れ臭そうに笑っている俺。
「眩しいくらいリア充。すっげ仲良さそうじゃん……」
今の俺とはえらい違いだ。高校3年生にして彼女はおろか女友達すら0。なのにこんな可愛い彼女なんてできるわけが――…
「……っ」
空中に浮かんだ半透明の写真を見ながら、瑞希さんはボロボロと涙を流していた。
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