婚約者のパラドックス

6/10
前へ
/10ページ
次へ
好きな子と言われて、ポン、と1人思い浮かんだ。同じクラスと白河さん。唯一俺と話してくれる女の子。 「……なんで言わなきゃいけないんですか。過去は関係ないでしょ」 自分のことは棚に上げる俺。 ムッとした顔の瑞希さんが詰め寄った。 「関係大ありだよ! だって翔ちゃん、その子のことが好きだって言い出したんだもん!」 「う、嘘だぁ」 8年越しに白河さんを? 何考えてんだ俺。確かに白河さんと話せた日はすっげ嬉しいけど、瑞希さんの方が数倍可愛い。 「嘘じゃないよ! だって、だって」 そう言った瑞希さんの瞳に涙がぶわっと浮かんだ。 「翔ちゃん高校生の時から同じ子のことが好きって言ったんだもん! それってその子のことでしょ!? 私というものがありながら!」 目の前で大粒の涙を流す瑞希さん。 そんな瑞希さんのことを泣いても可愛いな、なんて思いながら見ている高校生の俺。 いや待てよ。 それってどう考えても俺が好きな相手って。 「……瑞希さんでしょ」 「え?」 瑞希さんが小首をかしげた。 「いや。私が翔ちゃんと会ったの23才だし。高校の時知らないし」 俺が自分の事を指さすと、瑞希さんは少し黙った後「あー!!!」と叫んだ。 「高校生の、翔ちゃん!! 翔ちゃん!」 そう。今瑞希さんの前にいるのは『瑞希さんいいなー可愛いなーと思っている高校生の俺』。 瑞希さんが俺の両肩を掴んで揺さぶった。 「私のこと、好き!? 好き!?」 距離近い。可愛い。揺すられすぎて軽く酔いそう。でもそれより触れられている肩が気になる。 ガクンガクン揺さぶられながら俺は答えた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加