婚約者のパラドックス

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深呼吸してから俺はひと息に言った。 「……高校生の俺が瑞希さんのことをもっと好きになれば、未来の俺と瑞希さんの関係も磐石になるのでは? 生まれたての雛の刷り込みと同じで、今の俺に瑞希さんサイコ―って刷り込んでおけば――…」 やましくてだいぶ早口になってしまった。しかし瑞希さんは「確かに!」と目を輝かせて言ってくれている。 ごくんと唾を飲み込んで、俺はできるだけ何気なく聞こえるように気をつけながら言った。 「じゃ、じゃあ例えばーですけど。俺が好きになるために、もし今、瑞希さんがよければ……あの……キ、キ、キ!」 スラスラ言いたかったのに噛み過ぎて言えなくて、自分の頬を自分でビンタした。 「すみません。だからつまりあの……キ――…」 「キ?」 瑞希さんが少し首をかしげた後「ああ!」と声をあげた。 「キス! そうだね。翔ちゃんキス魔だもんね。高校生の時からだったんだ? いつも毎日おはようからおやすみまで何回も――…」 デレた顔の瑞希さん。うわー、未来の自分に腹立つ。でも自分だから許す。 こっちはまだキスなんて妄想でしかしたことないっつーの。 瑞希さんが向い合わせで立って、俺の学ランの袖を両手で持った。瑞希さんが「なんか犯罪っぽーい」とおかしげに笑った。 「いいのかな? 一応今翔ちゃん高校生だし。なんか悪いことしてる気分」 こちらは綺麗なお姉さんに悪いことされてるようで非常にいい気分です。すみません。 瑞希さんが少しだけ顔を赤らめて目をそらしながら言った。 「ハズカシーから目、つぶって」 開けてたいけど仕方がない。 俺は目をつぶった。
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