車と体とこんにちは

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 大安吉日の雲一つ無い青空。初夏の快晴は誠に清々(すがすが)しい。  あの男から逃げ切る為に走り続けている葵の姿は全くもって清々しくない。  路地裏に入り、冷たい壁に背を預け、一端休んで呼吸を整える。  手に握りしめていたiPhoneが振動する。メールだ。 『もうすぐ捕まえるよ』 「ほんと無理」  胃の辺りがくすぐったく疼くのを感じて気分が悪くなるが、額の汗を腕で拭き取り、壁を後ろ手に押しつけ、体に勢いをつけて地面を蹴り上げる。  路地裏に所狭しと置かれている鉄製のゴミ箱に脚をぶつけ、鈍い音とともにゴミ箱が倒れた。 スカートも切れた気がするが、そんなの気にしているわけにはいかない。  逃げなきゃ! 逃げ切るしかない。  あんな奴に捉まったら終わりだ。
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