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『そんなに暗くて狭い所に一人じゃ危ないじゃないですか。僕が行くからそこにいて、動かないで』
「え? ちょっと……どういうこと」
走るのをやめて前後左右を確認し、頭上も見上げたが誰もいない。
汚いビルの間に申し訳なさそうにはためく洗濯物が数枚。あとは何も無い。
ダメだ、逃げよう。逃げなきゃ! 路地裏は狭くて汚くて怖い。でもあいつはもっと怖い。
あと少しで路地から抜けられる。大学から逃げて来ているから、かれこれもう1時間弱は逃げていることになる。
路地を抜けたら地下鉄に乗ろう。電波さえ入らなければ、メールだってこないはずだ。
暗い路地の向こうには明るい光。
『早くこっちにいらっしゃいよ』
と言われている気がするし、そこに出たらもう、なんとかなるという気にさえ思えてくる。
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