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教室の戸を開けたら、そこには本来この場にいるはずのない男がいた。
そいつは俺が教室に入ったのを確認すると、組んでいた無駄に長い脚を解いてこう言った。
「バイトしない? マコ。」
朝8時の教室に生徒でもなんでもない男が居座っているという異常事態も、運良く今日が3連休の初日だった為に事なきを得ている。
「てめー、何でここにいんだ」
俺はこの高校の教師で、休日に溜まった事務処理を片付けてしまおうと出勤していた。
この教室は俺が担任を受け持つクラスで、今日は誰もいないはずなのに廊下を通る途中で物音を聞いたのだ。
この男は、後藤という。俺の高校時代からの友人……いや、この男を友人と呼ぶには抵抗がある。
高校で知り合い、今でも月1会う程度の、ただの知り合いだ。
後藤を端的に表すと、ガチのオタクだ。
二つの分野に精通していて、その一つが美少女アニメだ。関連グッズは幾ら掛かってでもフルコンプ。市販されたフィギュアのクオリティが気に食わない場合は自分で作ったりもしているらしい。アニメシリーズ全話を夢中で見るあまり、寝食を忘れぶっ倒れた事も記憶に新しい。
もう一つ好きなのはサバイバルゲームで、目の前の後藤の出で立ちは、今すぐ戦場に送り出されても全く支障の無い完全なミリタリーだから、今日はサバイバルな気分のようだ。
日々を趣味に捧げるニートなこいつの最大の収入源は株取引で、片手間にやっている癖に俺の何倍も稼ぐというのだから腹立たしいことこの上ない。
「マコに撮影を頼みたいんだ。カメラ、まだ捨ててないんだろ?山、行くぞ」
後藤に撮影を依頼されるのは、大学の時以来か。
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