緒戦、路傍に咲く花

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アメリカニューヨーク市マンハッタン、イースト川近くの国際連合本部ビルで、非公式の会議が開かれた。 一辺欠けて組まれた円卓には、中年から初老の男性が八人、若い女性が一人座っている。一様に厳しい表情で俯き、重苦しい沈黙を貫いている。 その背後で、一番若い男性がひどく粗っぽい足取りで右往左往している。赤い顔をして苛立たしげに髪を掻き毟りって扉へ向かい、蒼い顔をして落ち着きなくカフスボタンを弄りながら机の方へ戻ってくる。 そんな行ったり来たりを何度も繰り返す彼を見かねて、白髪交じりのショートウルフヘアの男性が立ち上がった。 「今日はお集まりいただき、感謝する。まず、今日の議題を言う前に、現状に対する認識を統一しようと思う」 「そんな必要はない。この場に居る者の誰もが、現状は正しく認識している!」 素早く振り返った若い男性が苛々した声でどなり散らし、口火を切った男性は溜息をついた。 その隣に座る一番若い男性が手を挙げ、先程声を上げた人物を諌める。 「挑発的な発言は慎みたまえ、イギリス代表。ロシア代表が可哀想ではないか」 「今一番甚大な被害を受けている国がどこなのか、考えてほしいものだな」 諫言を冷たく切り捨て、彼は穏便に切り出した男性――ロシア代表を睥睨した。その目には、彼が抱える問題以上に国同士の確執を思わせるものがあった。 その視線を避けるように目を伏せ、ロシア代表は机の上の機械を操作した。円卓の中央にホログラムの地球儀が映し出された。地球儀の各所に紛争地を示すマーカーがあり、端的に今の国際状況が示されている。 「現在、世界各地では紛争が起きている。中東はもちろん、アフリカ、南アメリカ、それに東欧において、その死者は依然増え続けている」 「そして、この理事会のメンツもかなり減った」 イギリス代表の右横に座る、ブロンドの女性がぼそりと呟いた。最盛期は数多の国の代表が集った理事会も、いまや閑散として久しい。 国連を大国が形骸化させた結果、自国を守るために多くの国が平和主義を捨てて去っていった結果だ。今になって大国側は彼らの助力を求めているが、彼らは未だこの場に戻っていない。 「アメリカ代表、発言の際は挙手していただきたい」 「すみません、私は手より口が先に出るものですから」
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