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教室の戸を開けたら、そこには彼女の姿があった。
窓からは夕陽が射し込んでいる。彼女は、その窓際に立ち、外の風景に視線を飛ばしていた。
「みんなもう行っちまったぞ」
彼は彼女の背中にそう声をかけた。
「うん。そうみたいだね」
彼女は答えた。
「だいたい、なんでこんなところに……」
と、彼は悪態をつくふりをした。
だがここは、二人が高校三年生の一年間、勉学に勤しんだ教室なのだ。愛着がないわけがない。
卒業の日の今日。式が終わってからすでに数時間が経過した夕暮れ時。
クラスメイトや部活の先輩後輩の間での別れの挨拶も済ませ、学校から生徒が少なくなりつつある時間帯だ。
教室に残っているのは彼女だけだった。
端正な容姿で頭が良く、それでいて活発で部活動でも中心に立つ――まさに絵に描いたような優等生。
男子生徒の憧れだった女の子。女子からは一目置かれる。もはや学年の中心だ。
例外なく、彼も彼女の存在に引かれていたのだ。
ただ、彼は取り立てて特徴のない地味な男子生徒だった。
クラスをまとめるような体質でもないし、どちらかといえば、地味な生活を好む部類である。
普通であれば、彼女と交わることなどなかったかもしれない。
入学時、たまたま互いが選んだ部活動が同じだったという奇跡が起きたことで、こうして普通に会話ができるくらいの関係にはなっているのだ。
「日が暮れる前に帰ろうぜ」
彼はそそくさと教室を出ようとする。
「待ってよ」
間髪なく叫びに似た彼女の声に呼び止められた。
「あのね。なんで呼び出したか、なんとなくわかるでしょ?」
彼の視線と、彼女のそれぶつかった。
「実は私、君のこと……」
以下、略――。
『サンプル①』
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