彼らの教室

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教室の戸を開けたら、そこにはいつもの男が座っていた。 高級感のある椅子に腰かけた男。その指には、悪趣味な金色の指輪がいくつか光っている。 薄気味の悪い、そして威圧感のある男の視線が、彼のほうに飛んできたため、思わず唾を飲む。 「番号」 男が急に、抑揚のない声を放った。 その声を聞いてびくりとした彼は、素早く三桁の番号を唱えた。声が震えてしまっていた。 「いち、ろく、はち……」 男は番号を丁寧に復唱し、手元の資料を目で追い始めた。 不器用そうに探すので可笑しくなるが、何か反応を見せてはならない。 それを態度に表せばどんな仕打ちを受ける羽目になるか、わかったものではないからだ。 やがて、男は番号を見つけた。 「……じゃあ、今日はAだ」 その瞬間、彼は身体中から血の気が引いて行く感覚がした。ひっ、と思わず可笑しな声が漏れた。 Aだけは嫌だ。本能が、咄嗟に逃げ出したい衝動を彼に与えたため、彼は少しだけ後ずさった。 しかし、つい先ほど潜り抜けてきた、教室の扉に背中をぶつけただけだった。 「んだあ、まさか逃げようとしたか?」 どこまでも高圧的な口調と、にやにやした笑みで男が煽る。 憎い。こんな奴、組織の中ではただの下っ端だとわかっているのに。 その背後にある巨大な闇に逆らうことは、絶対にできない。 「まあ、逃げたいなら、逃げてもかまわんのだぞ。……無事に逃げ切れればいいな」 嫌らしく男が笑う。奴にはわかっているのだ。逃げ場などないことを。 そうここは出口のない牢獄。すべての可能性を絶たれた世界なのだ。 やがて考えることさえも諦めた飼い犬たちは、いつも通りの作業に戻ることが賢明だと悟る。 彼は心中でため息を吐き出した。その胸の内に、陰鬱でどす黒い重石を抱えたまま。 また、長い一日の始まりだ。 彼は男から、「A」とだけかかれた粗末な木製のプレートを受け取った。プレートの裏側は安全ピンのような構造になっている。 彼は自分の服の左胸部分に、そのプレートを結わえ付けた。 以下、略――。 『サンプル③』
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