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「そして、これが今示した三通りのサンプル文章を再現した際の、被験者の脳波データだ」
佐藤教授はそういって、彼にパソコンの画面を覗くよう促した。
そこには赤、青、緑のラインが波を描いたグラフが映し出されていた。
時間経過に対する脳波の動きを観測したデータである。曲線の振幅が大きければ大きいほど、乱れていれば乱れているほど、被験者の情動が刺激されているという結果を示しているのだ。
そのうち、赤色で描かれた脳波データだけ、他の二つとは違う極端な触れ幅を見せていた。
青と緑が比較的なだらかな、丘陵のような波形を示しているのだが、赤色はまるで火がついたように、上下に激しい鋭角を作っている。
これはつまり、被験者の脳内に保存された記憶が、例のサンプルに触れたことによって刺激されている証拠なのである。
「文章の内容が被験者の過去の記憶を呼び起こしてしいるようですね」
彼は自身の推察をそのまま教授に伝えた。
教授、ゆっくりと頷く。
「その通りだね。忘れられない記憶は誰にもあるだろう?」
教授は少し楽しそうに笑みを作った。研究者のそれだ。
「美しい記憶は美しいまま、恐怖の記憶は恐怖のまま、残る。ある感情を伴って得られたエピソード記憶は、より強く記憶として残るということがわかっているからね」
教授はさらに続けた。
「それと、物語の内容の整合性というのも、脳に正しい理解をさせるのに重要だよ。この実験でのキーワードは、“教室”だ。教室と聞いて、咄嗟に連想できる物語でなければ、脳はポカンとしてしまう。この実験は、そういう意図もあり、三通りのシチュエーションを用意した」
この実験では、まず被験者を三つのグループに分ける。
次に前述のサンプル①~③の文面をそれぞれのグループに割り当て、彼らの脳に文面の内容を認識させる。
結果、内容の差異による脳波データの違いを観測する。
簡単にまとめるとこういった実験だった。
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