彼らの教室

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「被験者は何人くらいだったんですか?」 彼は教授に訊いた。 「記録によれば、百十三人、だな」 「そんなに沢山ですか……。被験者の経歴は、皆同じなんですよね……たしか」 「そうだよ。もちろん、あの場所で過ごした時期や期間にはそれぞれ差があるがね。皆、学業をまっとうした後――」 そこまでを言ってから、佐藤教授は言葉を切った。腕時計に視線を落としている。 「……おや、そろそろ授業が始まる時間だな」 教授がそういったので、彼は時計を見た。 「あっ、そうですね。ラボラトリーに戻らないと」 「この考察の続きは、午後からゼミ室で、ということにしよう」 教授は、液晶ディスプレイに映し出されていたデータを閉じた。 彼は手早く荷物を片付けると、佐藤教授に一礼して部屋を出た。 ラボラトリーに向かう。次の講義はなんだっただろうか。教科書の文面をなぞるだけの授業は、いつも眠くなってしまう。 ラボラトリーへの廊下を歩きながら、彼はつい先ほど目にした実験データのことを考えていた。 あの実験の存在とその結末を、彼は古くから知っていた。 この国では有名な話だ。小学校の社会科の教材でも取り上げられているし、中学の歴史の授業でも耳にした記憶がある。 ただし、それは存在のみに軽く触れるだけであり、その真相について深くは語られていない。 端的に結論を述べると、あの脳波測定実験をした三日以内に、被験者の約三分の一が自殺した。
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