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「ハルにはね、意外に千秋ちゃんみたいな男が合うと思うわよ」
がっちり、みっちり、ムキムキに体を鍛えている『エクス』のマスター、ケンタロウがオネエ言葉でため息とともに吐き出す。
「なんで『意外』になのー。俺本気で春遠さんのこと狙ってるんだけど!」
「だからよ!」
ケンタロウは地方で割と大きめなゲイクラブバーの雇われ店長をしていたが、自分の店が持ちたいと都心で小さなバーを始めたらしい。
西洋人ばりに彫りの深い顔立ちで坊主頭、ガタイのいい体にピタリとしたシャツをいつも着ていて、いかにもゲイという風貌の男だ。ピシャリと辛口の喋り方にも根の優しさが伝わるからか、常連からはママと呼ばれ慕われている。
「ハルと寝たいって男が百人いても、その中につき合いたいって男は絶対ひとりもいないわ。千秋ちゃんみたいに本気でつき合いたいなんて既得な男は千人にひとりいるかわかんないんだから、アンタたちつき合っちゃいなさい」
規格外に体格のいい男が、モデルのようにスマートな男の背をバシバシっと遠慮なく叩く。 千秋は内容はどうあれケンタロウの援護姿勢に目を輝かせ春遠を見た。目当ての男は気の抜けた表情を全く変える様子がない。
「痛い、痛い、ケンタロウさん。客に手出すなって言ったのケンタロウさんでしょ」
「そうだけど。千秋ちゃんならいいわ。これ逃したらハル、アンタそんな綺麗な顔してても一生孤独なゲイよ」
春遠き、と書いてハルオ。儚い名に似合わず、細身な割に肩や手の目立つところが男っぽい。
どうやら恋愛の方は名前に沿って本命は長らくいないらしく、取っ替え引っ替え、その場限りのつき合いしかしていないようだった。春遠は自分のことを話さないから、ケンタロウとの会話から推測したことで、もちろん本当のところは知らない。
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