121人が本棚に入れています
本棚に追加
カウンター越しに春遠のすらっとした立ち姿に見惚れる。マスターのケンタロウには悪いが、こんなところでアルバイトをしていないで、モデルやタレントとしても十分やっていけるのではないかと思う。
背は百八十センチは超えているし、人を惹きつける透き通るような魅力が春遠にはある。明るいサラサラの髪は全く不自然に感じないほど、琥珀に近い薄い瞳の色とともに、すっきりとした顔立ちに似合っている。
どこか繊細で落ち着いた見た目に、歳は千秋のひとつ年上の二十七だと聞いて驚いた。だからと言って幾つに見えるかと言われれば判らず、年齢不詳な美青年というところだ。
それでも話してみると年相応の気安さがあり、こうしてバーのカウンターで過ごす時間は心置き無く楽しい。
「ひどい言われようだなー。ケンタロウさんてさ、なんで俺にそんな意地悪なの?」
色付きリップも塗っていないのに桜色に艶めく唇を少しとがらせながら春遠は言ったが、ポーズのようなもので本当に気にしている様子はない。
「意地悪なんて言ってないわよ。そういう未来が見えるの。アタシ、占い師にでもなろうかしら」
え、ママ占いできるの?見て見て!とカウンターに座る男が乗ってきて、話は中途半端にそれまでになった。
「俺本気なんだけどなー、春遠さん。ケンタロウさんもああ言っているし、今度外で会わない?」
カウンターの向こうにいる手の届かない男に乞うような視線を投げかけ、思い切りストレートに誘ってみる。
「千秋は可愛いんだから、イイ男さっさと見つけな」
バーテンダーとしてはあっさりとした、百点満点の答え。
出会った時より断然親しくなってはいるはずなのに、ちっとも近づいた感じがしない。春遠は遠く、手が届くという気がしない。それでもこの恋は諦められない。
最初のコメントを投稿しよう!