02 全ての愛を君に

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『可愛い』とよく言われる千秋の外見は、確かにそれほど悪くない。背は百七十センチと男としては高くないが、頭が小さいのでバランスよく見えるし、目はぱっちりした二重で小動物系の愛嬌がある。アパレルショップで働いているだけあって服装には気を使っていて、それだけで雰囲気が多少華やいで見え、前髪を下ろしたミディアムショートのヘアスタイルは似合っているとよく褒められる。  ゲイでネコの千秋はこの見た目で、恋愛におけるパートナーを見つけるのにさほど困ることはない。ケンタロウが冗談でも春遠につき合ってしまえと勧めてくれるくらい、性格にも見た目にも難はない…はず、なのになぜこうも男運が悪いのか。  メンクイだからいけないとも言われることもある。確かに千秋がつき合うのは大抵そこそこ顔の作りがいい男だ。  それにしても顔がいい男全員が性格に問題があるわけではないだろう。では自分に問題があるのかと考えてもさっぱりわからない。  まだAVや風俗に売られたことはないが、いつかそんなことさえ起こる気がして占いやパワースポット巡りに凝った時期もあり、周囲からは「女子か!」とからかわれた。 「千秋、もう一杯飲む?」  春遠に言われ、メニューではなく春遠の後ろにあるライトアップされた棚に並ぶアルコールの瓶を眺める。後方から当たる光でどの瓶も色鮮やかにガラスを輝かせていて、誘っているように見える。 「じゃポートワインの赤二杯。一杯は春遠さんに」  可愛い可愛いと言われていてはこんな言葉も決まらないのだけれど、精一杯格好つけて春遠の瞳を見つめながら言った。  小さな足つきのグラスがコースターの上に置かれ、ルビー色の液体がゆっくりと細く注がれる。春遠は手持ちでもう一つの同じ形のグラスにも注ぎ、いただきますと乾杯を促した。そっとふたりでグラスを合わせる。  少し口をつけただけで、とろりと甘く深みのある味が口の中に広がる。ポートワインは糖分がアルコールに変わる発酵途中にブランデーを加えるから相当甘いのだけれど、春遠の表情の方がずっと甘かった。  グラスにあてられる春遠の唇をじっと見ながらキスの感触を、そしてワインを味わいながら口内で唾液に溶け混じる液体を想像する。それは夢見るようにひどく甘美で、アルコールの度数以上にくらりとした。
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