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「やだっ!死にたくないっ!」
後ろ手に手すりをしっかりと握り、喉の奥から思い切り叫んだ。瞬間、ぶわっと体中に汗が吹き出していた。
どれほどその体勢でいたのかはわからないが、長いようで本当は一瞬だったのだと思う。男から解放され、もう一度体勢を取り戻した時、ドクンドクンと大きく鳴る心臓を押さえる千秋の周りにやっぱり立ち止まっている人はいなかった。酔っ払いがふざけているくらいに見えるほどの時間だったのだろう。
「そっか。よかった」
あっさり言った男は一点の曇りもなく笑っていた。
「あんた可愛い顔してるから、生きてる方がいいよ」
大掛かりに揶揄われたのだとわかっても、柔らかな口調でそう言われて泣きそうになった。この男が可愛いと言ってくれるなら、生きている方がいいのだと、素直に思えた。
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