第一章:偽りの招待状

2/91
前へ
/344ページ
次へ
           1 「久しぶりね、恭一。四年ぶりくらいかしら?」 七月三日、木曜日。午後一時四十分。 昼下がりの微睡むような時間帯に突然現れたその女性は、お兄ちゃんの前に立つと馴れ馴れしい調子でそう口を開いた。 見た目に比例させたように綺麗な声だなと思いつつ、あたしは来客用のコーヒーとお菓子の用意を始める。 「…………ああ、誰かと思えば詩織か。そんな恰好をしているから、昔の面影と合致しなかった」 「昔って、学生時代のこと? 私もう二十六だよ? いつまでも若くなんかないって」 このやり取りは、どう考えても初対面ではなさそうだ。 学生時代という単語が出てくるってことは、高校のときの知人だろうか。 前触れもなく現れた正体不明の来客をこっそりと観察しながら、二人の会話へ意識を集中させる。 「普段は会わず、電話やメールでのやり取りもない。となれば、オレの中にある詩織のイメージは昔のままで止まっているのが当然だ。オレには千里眼やエスパーみたいな能力はないからな。……そっちへ」
/344ページ

最初のコメントを投稿しよう!

538人が本棚に入れています
本棚に追加