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「久しぶりね、恭一。四年ぶりくらいかしら?」
七月三日、木曜日。午後一時四十分。
昼下がりの微睡むような時間帯に突然現れたその女性は、お兄ちゃんの前に立つと馴れ馴れしい調子でそう口を開いた。
見た目に比例させたように綺麗な声だなと思いつつ、あたしは来客用のコーヒーとお菓子の用意を始める。
「…………ああ、誰かと思えば詩織か。そんな恰好をしているから、昔の面影と合致しなかった」
「昔って、学生時代のこと? 私もう二十六だよ? いつまでも若くなんかないって」
このやり取りは、どう考えても初対面ではなさそうだ。
学生時代という単語が出てくるってことは、高校のときの知人だろうか。
前触れもなく現れた正体不明の来客をこっそりと観察しながら、二人の会話へ意識を集中させる。
「普段は会わず、電話やメールでのやり取りもない。となれば、オレの中にある詩織のイメージは昔のままで止まっているのが当然だ。オレには千里眼やエスパーみたいな能力はないからな。……そっちへ」
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