プロローグ

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元々手先は器用な方だし大抵のことはどうにかなるだろうと高を括って起業したらしいけれど、ここ二ヵ月の間に事務所へかかってきた電話は四回。その内の二回は間違い電話。 そして、直接事務所へ訪れたお客さんはたった一人だけ。 つまり、二ヵ月で対応したお客さんの合計は僅か三人。 これ即ち、大赤字というわけで。 生活自体は少し貯金があるのと宮城県で自営業をしている両親からの仕送り――正直二十四歳でこれは情けないと思うけど――でどうにか成り立っているので、とりあえず心配はないみたい。 でも、こんな暮らしをしているのを毎日目の当たりにしていると不安になってしまうのが普通なわけで。 せめてもう少し、何かしらの方法で収入を増やさなければ遅かれ早かれ破産してしまうのは確実なんじゃなかろうか。 「…………ねぇ、お兄ちゃん」 ピッタリ十分。 最後に会話を交わしてからピッタリ十分経ったのを側にあるデジタル時計で確認して、あたしは努めて何気ない調子で口をひらいた。
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