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「オレのため? ……言っている意味がわからない。何故マリネがオレのためにバイトをする必要がある。誕生日なら二ヵ月も前に過ぎたし、プレゼントの類も一切いらないと常に言っているはずだ」
そこまで喋って、お兄ちゃんはデスクに乗せていた足を下ろしもたれかかっていた椅子から背中を離した。
そして、デスクの上に置きっぱなしになっていたブドウジュースに手を伸ばして一気に飲み干す。
カタリという、空になったガラスコップがデスクとぶつかる音が響く。
「うん、それも違うから。プレゼントとかじゃなくて、生活のためにバイトしようかって話。ここ、全っ然お客さん来ないでしょ? 家賃だって払わなくちゃいけないし、このままだとそのうち潰れちゃうよ」
「そのときはそのときだ。別に死ぬわけでもない。深刻に考える必要がないだろう」
開けていた窓から、涼しい風が迷い込んでくる。
平然とした様子で椅子に座るお兄ちゃんの白髪をフワリと揺らしたそれは、あたしの顔を撫でて背後へと吹き抜けていく。
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